暫定!2021年映画ベスト10

2021年10月20日

みなさんこんばんは!

昨日第34回東京国際映画祭のチケット取りを終えて、就活のために金沢へ行ってきました。

まあ正直フィルメックスと東京国際映画祭の同時開催という何のメリットにもならないのは辞めてほしいというのが本音です。まあそれはさておき希望した作品のチケットは全て取ることが出来たので参戦する方はどうぞよろしくお願いいたします。以下、一応私のスケジュールも載せておきます。

※東京国際映画祭は東、フィルメックスはフと略します

※コンペはコ、ワールドフォーカスはWF、ガラ・セレクションはガ、アジアの未来はア、ユースはユ、特別招待作品は招とそれぞれ略します

10/30(土) 『洞窟』(・WF)→『ザ・ドーター』(・コ)→『スワン・ソング』(・WF)→『時の解剖学』(・コ)

10/31(日) 『クレーン・ランタン』(・コ)→『私たちの永遠の夏』(・ユ)→『砂利道』(・コ)
11/1(月) 『Hand of God/神の手が触れた日』(・ガ)→『永安鎮の物語集』(・コ)
11/2(火) 『市民』(・コ)→『見上げた空に何が見える?』(・コ)→『一人と四人』(・コ)→『ただの偶然の旅』(・コ)
11/3(水) 『タミー・フェイの瞳』(・ガ)→『ラストナイト・イン・ソーホー』(・ガ)→『ユニ』(・コ)
11/4(木) 『アヘドの膝』(・招)→『フレンチ・ディスパッチ』(・ガ)
11/5(金) 『ある詩人』(・コ)→『四つの壁』(・コ)→『朝が来ますように』(・コ)
11/6(土) 『瀑布』(・招)→『麻希のいる世界』(・招)→『小石』(・コ)
11/7(日) 『ヴェラは海の夢を見る』(・コ)→『箱』(・WF)→『牛』(・ユ)→『もろい絆』(・ア)
11/8(月) 『ベネシアフレニア』(・WF)→『東京グランプリ』(・コ)or『ディア・エヴァン・ハンセン』(・クロージング)

東京国際映画祭は19、フィルメックスは11、合計30作品鑑賞予定です。最終日は東京グランプリが既に観てるものだったらクロージング作品の方に行こうと思い両方とりました。特に今回は来年から就職してしまうかもしれないと思い、思う存分取らせてもらいました。空いた時間で、当日学生料金で取れるものがあればとろうと思っているので最終的にはもう少し増えるかもしれません。

ちなみにですが、この中でいくつか来年のアカデミー賞代表作品に決まったものがあります。いずれもフィルメックスで上映予定のもので、『ホワイト・ビルディング』はカンボジア代表、『ユニ』はインドネシア代表、『小石』はインド代表、『瀑布』は台湾代表に決定しています。また、先日発表された米ゴッサム賞では外国映画賞に日本代表『ドライブ・マイ・カー』がノミネートされました。ゴッサム賞自体はアカデミー賞にとってそこまで重要な賞ではありませんが、存在を認知させるという意味ではよかったと思います。


さて、ここからが本題です。実に中途半端な時期で恐縮ではありますが、今年の暫定ベスト映画をここで発表させていただきたいと思います。

外国映画ベスト10、日本映画ベスト10、ホラー映画ベスト10という形で記していきます。

外国映画ベスト10

①『プロミシング・ヤング・ウーマン』
②『クリシャ』
③『ベルリン・アレクサンダー・プラッツ』
④『Swallow/スワロウ』
⑤『この茫漠たる荒野で』
⑥『イン・ザ・ハイツ』
⑦『アイダよ、何処へ?』
⑧『水を抱く女』
⑨『17歳の瞳に映る世界』
⑩『システム・クラッシャー 家に帰りたい』

 今年はフェミニズム的な視点で描く傑作が多かったように思います。まずその筆頭は『プロミシング・ヤング・ウーマン』でしょう。そのメッセージ性だけでなく意外性のあるストーリー展開など本当に面白い映画になっています。これが長編デビュー作というのが信じられない傑作だと思います。また今年初めに公開された『Swalloe/スワロウ』も一見ジャンル映画かと思いきや女性の自立を描いた傑作でした。『17歳の瞳に映る世界』も地味ではありますが原題の『Never Rarely Sometimes Always』の意味が分かると鳥肌が立つような作品でした。シスターフッドものとしても見応えがありますね。

 王道のハリウッド映画では『この茫漠たる荒野で』はアカデミー賞では結局作品賞候補にはあがりませんでしたが、私は最も好きな作品でした。一風変わった西部劇であり、トム・ハンクスの熟練の演技と美しい撮影と音楽、新鋭ヘレナ・ツェンゲルの好演も光る素晴らしい作品です。そんなヘレナ・ツェンゲルが注目を集めたのが『システム・クラッシャー 家に帰りたい』です。この作品は一般公開されておらず、EUフィルムデーズで拝見したのですが、とにかく凄まじいです。爆音と静寂、怒りと愛情がごちゃまぜになって押し寄せてくるような凄まじい作品です。11月に開催されるドイツ映画祭でも上映されるようなのでぜひ観てほしい一本です。

 ミュージカル映画で批評家から絶賛されているのが『イン・ザ・ハイツ』です。トニー賞受賞の同名ミュージカルを映画化した作品ですが、ハリウッド映画ながらほとんどの登場人物が非白人です。移民問題に揺れるアメリカを舞台にここまでの娯楽ミュージカルに仕上げたのは『クレイジー・リッチ!』のジョン・M・チュウ監督の軽快な演出あってこそでしょう。しかし実は興行的にコケてしまい、アカデミー賞は危ないかも?とも噂されています。

 『クリシャ』は『WAVES/ウェイブス』『イット・カムズ・アット・ナイト』のトレイ・エドワード・シュルツ監督の長編デビュー作です。その後の作風と同じく精神的な不安定さを持つクリシャという女性をこれでもかというくらい痛々しく描いた怪作です。家族という呪いを描いた作品として『ヘレディタリー/継承』級の作品なのではないかと思います。『ベルリン・アレクサンダー・プラッツ』はドイツ映画ですが、長さは3時間。最近長い映画多いですね。実はこれ、ファスビンダーがドラマとして制作した『ベルリン・アレクサンダー広場』の再映像化作品です。ですから長いのも宜なるかなと。長さを全く感じさせないテンポ感もありつつ、鮮烈なビジュアル構築が随所に光る相当な力作だと感じました。『イン・ザ・ハイツ』同様難民・移民問題を絡めた予測不能のストーリーも非常にスリリングで面白い作品でした。『水を抱く女』は神話・伝説上の水の精であるウンディーネを舞台を原題に置き換えた作品です。ベルリンで女優賞を獲得しているだけあり主演のパウラ・ベーアがそのウンディーネを見事に体現してみせています。小道具の使い方や撮影など全てが計算され尽くされた現代の寓話として非常に興味深い作品でした。

 『アイダよ、何処へ?』は今年のアカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされたボスニア・ヘルツェゴビナの作品です。あまりの衝撃に思わずパンフレットを即買いしてしまいました。ホロコースト以後にこんな悲惨な出来事が起きていたなんて、自らの勉強不足を猛省させられました。衝撃度で言ったら今年一番です。もちろんヤスミラ・ジュバニッチ監督の演出もスリリングで非常に面白い映画になっています。またこれも女性監督ならではというか、女性蔑視の中生きる女性を描いたフェミニズム的な側面も持っています。

日本映画ベスト10

①『ドライブ・マイ・カー』
②『茜色に焼かれる』
③『あのこは貴族』
④『街の上で』
⑤『騙し絵の牙』
⑥『牛久』
⑦『Arc アーク』
⑧『かそけきサンカヨウ』
⑨『すばらしき世界』
⑩『哀愁しんでれら』

 まずは評価の高い常連監督たちの作品から。『ドライブ・マイ・カー』については異論ないんじゃないですかね。濱口監督の前作『寝ても覚めても』は僕は好きではなかったのですが、今回はもうお手上げです。参りました。3時間あり、基本車を走らせている描写が続くのになぜこんなに面白いんだ?と思いながら陶酔してしまいました。主演二人はいわずもがな、岡田将生が思いがけずよかったですね。『茜色に焼かれる』はコロナ後の日本社会を完全に描写してみせたという点で大きな作品です。ひたすらに辛くヒリヒリする話なのですが、石井監督ならではのユーモアや独特の演出もあり辛いだけじゃない作品になっていたのがよかったと思います。西川美和監督の『すばらしき世界』は西川監督のダークな、心の闇に焦点を当てた演出の見事さはさることながら、役所広司が見事に主人公であるヤクザ上がりの男を体現していました。役所広司の演技なくしてこの映画は成り立たなかったでしょう。今泉力哉監督の『街の上で』『かそけきサンカヨウ』は今泉監督のテーマでもある様々な愛の形をテーマにしながら、実は全く異なる仕上がりになっていると思います。脚本としてはやはり『街の上で』の質が高いでしょう。青という男を主軸にしながら繰り広げられる群像劇として今泉監督はもはや円熟の域に達していると思いました。対して『かそけきサンカヨウ』は主人公が二人おり、故に脚本的には弱さがあります。しかし善人しか出てこない、でも予定調和には決してならない優しい話であり、爽やかな後味を残す快作であるように思います。そして吉田大八監督の『騙し絵の牙』は、この中で唯一のエンターテインメント作品です。出版業界を舞台にしながらも奇想天外なストーリーを見事に捌いて見せた吉田監督の名人芸が光ります。当て書きされたという大泉洋もいいですが、松岡茉優は本当に素晴らしいですね。

 次に新人監督の作品ですが、まずは『あのこは貴族』です。これは昨年の東京国際映画祭に出品され評価の高さは聞いていましたが、ここまでとは思いませんでした。長編二作目ながら細やかな演出で二人の女性の生き方を描いたフェニミズム作品で、主演の門脇麦と水原希子の代表作になったのではないでしょうか。助演の石橋静河さんの好演も光り、実に堂々とした作品になっています。次に『哀愁しんでれら』はTSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILMというクリエイター発掘コンペティションでグランプリを獲得した渡部亮平監督の長編二作目となる作品です。ある種過激で非現実的なストーリー展開ながら、家族という呪いを描いたダークなシンデレラストーリーです。ラストには賛否両論あるでしょうが、僕はその突き抜けた狂気に快感を覚えました。新人と言うことですが脚本に関わってきた人物ということでよく練られていると思います。これから期待の監督であることは間違いないです。

 『牛久』はドキュメンタリー作品です。一般公開はされておらず、僕は山形国際ドキュメンタリー映画祭で配信で拝見しました。なぜこれを選んだかというと、社会的な意義のある映画だと思ったからです。牛久と品川には入国管理センターがあります。難民として申請しても通るのはほんの数人、長期収容される人の中には精神的に病んで自殺未遂をする人もいる。そして職員による目を背けたくなるような暴力、これは日本人として知っておかなければならない問題だと思います。

 『Arc アーク』の石川慶監督は既に『愚行録』『蜜蜂と遠雷』などで高い評価を得ている監督です。本来ならば常連監督にいれてもよかったのですが、なぜそうしなかったかというとこれがSF作品だからです。日本においてSF作品は鬼門で、作られることも少なければ作られても失敗作ばかりです。それにあえて挑戦した石川監督に敬意を表したいという意味で入れました。正直もう少しテンポよくしてくれないかなとは思ったものの、独特の死生観や未来のテクノロジーの合理性など非常によく考えられた作品で、流石石川監督というべき静かな語り口が生きた作品であるように感じました。

ホラー映画ベスト10

①『バッド・ヘアー』
②『ザ・スイッチ』
③『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』
④『返校 言葉が消えた日』
⑤『死霊館 悪魔のせいなら、無罪』
⑥『フィアー・ストリート』3部作
⑦『セイント・モード 狂信』
⑧『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』
⑨『ファブリック』
⑩『レリック-遺物-』

 日本のホラーでいいのがあれば入れたかったんですが残念ながらなかったですね。ということでまずアメリカものを何本か。『バッド・ヘアー』ですが、これはHulu制作の作品で、黒人女性の髪に対するコンプレックスというものをホラーという形に昇華させて描いたもので、実にダイナミックな演出でしっかり怖いですしなにより痛い。文句なしに面白い作品でした。『ザ・スイッチ』は『ハッピー・デス・デイ』2部作を監督したクリストファー・ランドン監督ならではの軽快なテンポの入れ替わりホラーで、殺され方もなかなか独創的で非常に面白かったです。『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』は正直続編なんていらないよ、と思っていたのですが、子供の成長というものを軸にして描く正統な成長譚でもあり、最後には涙してしまいました。作られるべくして作られた続編で大変素晴らしいと思います。『死霊館 悪魔のせいなら、無罪』は『死霊館』シリーズの三作目にあたりますが、監督は『ラ・ヨローナ 泣く女』のマイケル・チャベスに交代しました。今まではあくまで館が舞台だったのに対し今回はいわゆる探偵ものに挑戦し、見事にやり遂げた成功作だと思います。特にウォーレン夫妻と若いカップルの愛情を並行して描くことで愛の物語にもなっているのが素晴らしいです。『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』は厳密にはサスペンスなのですが、ホラー的スリルが味わえる一作となっているのでこちらにカテゴライズしました。本作は実は批評家には酷評されています。ヒッチコックの『裏窓』を意識しているがそれには全く及ばないという評価です。僕も映画の出来としてはあまりいいものではないと思いますが、酷評するほどではないと思っています。コスチュームものが得意なジョー・ライト監督ならではのビジュアル構築は面白いですし、なんといっても主演のエイミー・アダムスが素晴らしいです。

 そして変わり種で『フィアー・ストリート』三部作です。これは劇場公開されずNetflixのホラーシリーズとして制作されました。『フィアー・ストリート Part 1:1994』はレズビアンカップルを主役とした学園ホラー、『フィアー・ストリート Part 2:1978』は『13日の金曜日』に代表されるキャンプ場ホラー、『フィアー・ストリート Part 3:1666』は前半は魔女狩り、後半は1994年に戻り伏線回収という様々なジャンルに挑戦しながらも三部作として上手くまとめたというのが凄いと思います。監督も『ハネムーン』というホラーを一本監督しただけの新人を抜擢、新人発掘の場としてのNetflixが生かされたいい例だと思います。もちろん独自性はあまりないですがホラー三部作と言うだけで心躍る僕としては大いに楽しめました。

 『返校 言葉が消えた日』は台湾のホラー映画です。元はホラーゲームで、台湾で大ヒットしました。正直映画としては未熟というか、脚本の練り込み不足な面は感じましたが、言論統制の厳しかった時代の台湾ならではの美術が素晴らしく、新鮮なビジュアルは特筆すべきものがあると思います。

 『セイント・モード 狂信』はA24がアメリカ配給を手がけ、批評家からも高評価を受けています。日本では残念ながら劇場公開されませんでしたが、これは実に惜しい事態ですね。というのも、この作品、音響にかなりこだわってつくられています。家で観るならヘッドホン推奨です。いかにもA24っぽい静かな狂気を描いた作品ですが実にセンスがよく、ラストショットには身震いするほどの衝撃を受けました。『ファブリック』は未体験ゾーンの映画たちという特集上映で紹介された作品ですが、これもアメリカではA24が配給を担当しています。監督は日本では『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』という作品が紹介されているのみですが、インディーズのホラー界隈では有名な方のようです。いかにもアート系ホラーという感じで、人によっては退屈に感じてしまうかもしれませんが、私としてはその腑に落ちなさ、訳のわからなさも含めじわじわとくる作品になってしまっています。『レリック-遺物-』も静かなアート系ホラーです。終盤のある人物の造形には呆然とすると同時に、老いるということの悲しさが伝わってきて独特の後味を残す作品です。


ということでいかがだったでしょうか。あくまで暫定なのでこれからまだ変わるかもしれません。というか東京国際映画祭とフィルメックスで大分変わると思います笑

これからの期待作としては

外国映画 『リスペクト』『ほんとうのピノッキオ』『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『ドント・ルック・アップ』『ジャネット』『ジャンヌ』『ウエスト・サイド・ストーリー』

日本映画 『偶然と想像』『きのう何食べた?』

ホラー映画 『ハロウィン KILLS』『アンテベラム』『マリグナント 狂暴な悪夢』『ダーク・アンド・ウィケット』

という感じでしょうか。今年は是枝裕和、黒沢清、河瀬直美、深田晃司、青山真治、阪本順治、真利子哲也らの新作がなかったのでちょっと物足りない感じですよね。