第15回アジア・フィルム・アワード&第14回アジア太平洋映画賞

2021年10月13日

アカデミー賞国際長編映画賞日本代表が濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』に決まりましたね!これは朗報だと思います。やはりカンヌで脚本賞をとっているというのは大きく、ノミネートまではいけるのではないでしょうか。ライバルはフランス代表『Titane』でしょうかね。アルモドバルの『Parallel Mothers』がスペイン代表に選ばれなかったことはかなり衝撃です。しかしそれによって主演女優賞など主要賞で戦いやすくなるとの声もありますね。

あとはイラン代表がファルハディの『A Hero』に、イタリア代表が『Hand of God/神の手が触れた日』に決まれば大きなライバルとなるでしょう。

その他では同じくカンヌでグランプリをとったフィンランドの『Compartment No.6』、ベルリンで男優賞をとったドイツの『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』、サンダンスで審査員賞をとったコソボの『Hive』あたりが有力でしょうか。

またカンヌで女優賞をとったノルウェーの『The Worst Person in the World』、審査員賞をとったイスラエルの『アヘドの膝』、また賞こそとっていませんがヴェネツィアのコンペ作品であるメキシコの『箱』も可能性があるかもしれません。

少なくともアジア圏でいえば『ドライブ・マイ・カー』の実績はダントツです。数年前『パラサイト』で席巻した韓国も今回は弱く、台湾も昨年『ひとつの太陽』がショートリストまで残ったチョン・モンホン監督作品とはいえ国際的知名度は低いです。2002年の『HERO』を最後に落選が続いている中国も可能性は低いでしょう。タイはアピチャッポン・ウィーラセタクンの『MEMORIA メモリア』がカンヌで審査員賞をとっていますが、英語の映画のため選考対象にはならないでしょう。唯一不気味なのは昨年『少年の君』で久しぶりのノミネートを果たした香港でしょうか。

とまあアカデミー賞予想はここまでにして、本題に移ります。

アジア版アカデミー賞と言われるアジア・フィルム・アワードの結果と、ユネスコが主催するアジア太平洋映画賞のノミネートが発表されたので今回はそれについて書いていきます。


アジア・フィルム・アワードとアジア太平洋映画賞の違い

まず大きな違いとして主催者が異なるということが言えるでしょう。

アジア・フィルム・アワードは2007年に香港国際映画祭によって設立され、2013年からは香港国際映画祭、東京国際映画祭、釜山国際映画祭が共同設立したアジア・フィルム・アカデミーが主催者です。なので傾向としては東アジア、とりわけ中国、日本、韓国の作品が賞を獲ることが多いと言えます。

対してアジア太平洋映画賞は同じく2007年からオーストラリアのブリスベン市の協力の下、ユネスコや国際映画製作者連盟を基礎パートナーとして開催しています。なので傾向としては中東やインド、オーストラリアなどを含んだ広い地域の作品が対象になります。

また、同じ年に設立された賞ではあるのですが、タイトルにある通り開催回数がずれています。これはアジア・フィルム・アワードでは前年の映画を対象に選考する米アカデミー賞と同じスタイルなのに対し、アジア太平洋映画賞はその年の映画を対象に選考します。なので回数がズレているのです。

これまでにアジア・フィルム・アワードとアジア太平洋映画賞の作品賞をW受賞したのは2007年のイ・チャンドン監督『シークレット・サンシャイン』、2011年のアスガー・ファルハディ監督『別離』、2018年の是枝裕和監督『万引き家族』、2019年のポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』の4作品のみです。


第15回アジア・フィルム・アワード

★作品賞

◎『スパイの妻』(日本)

 『偶然と想像』(日本)
 『夢追い人』(インド)
 『One Second』(中国)
 『茲山魚譜 チャサンオボ』(韓国)

★監督賞

◎チャン・イーモウ『One Second』(中国)
 黒沢清『スパイの妻』(日本)
 濱口竜介『偶然と想像』(日本)
 イ・ジュニク『茲山魚譜 チャサンオボ』(韓国)
 アディルハン・イェルジャノフ『イエローキャット』(カザフスタン、フランス)

★主演男優賞
◎ユ・アイン『声もなく』(韓国)
 役所広司『すばらしき世界』(日本)
 モー・ズーイー『親愛なる君へ』(台湾)
 チャン・イー『One Second』(中国)
 ラム・カートン『リンボ』(香港)

★主演女優賞
◎蒼井優『スパイの妻』(日本)
 チョン・ジョンソ『ザ・コール』(韓国)
 チェン・シューファン『弱くて強い女性たち』(台湾)
 チャン・ツィフォン『Sister』(中国)
 アセル・サドワカソワ『Ulbolsyn』(カザフスタン、フランス)

★助演男優賞
◎キム・ヒョンビン『無聲』(台湾)
 宇野祥平『罪の声』(日本)
 ツェー・クワンホウ『Drifting』(香港)
 パク・ジョンミン『ただ悪より救いたまえ』(韓国)
 ユー・アイレイ『Cliff Walkers』(中国)

★助演女優賞

◎蒔田彩珠『朝が来る』(日本)
 チャン・ユンジュ『三姉妹』(韓国)
 シエ・インシュエン『弱くて強い女性たち』(台湾)
 ロレッタ・リー『Drifting』(香港)
 チン・ハイルー『Cliff Walkers』(中国)

★新人監督賞

◎ホン・ウィジョン『声もなく』(韓国)
 アーマド・バーラミ『荒れ地』(イラン)
 ハン・シュアイ『漢南夏日』(中国)
 イン・ルオシン『Sister』(中国)
 P.S. ヴィノスラジュ『Pebbles』(インド)
 春本雄二郎『由宇子の天秤』(日本)

★新人俳優賞

◎リウ・ハオツン『One Second』(中国)  
 バフィ・チェン『無聲』(台湾)
 ルーホッラー・ザマニ『Sun Children』(イラン)
 服部樹咲『ミッドナイト・スワン』(日本)
 コン・スンヨン『Aloners』(韓国)

★脚本賞

◎『夢追い人』(インド)
 『Sister』(中国)
 『声もなく』(韓国)
 『1秒先の彼女』(台湾)

★編集賞

◎『Cliff Walkers』(中国)
 『Sun Children』(イラン)
 『1秒先の彼女』(台湾)
 『ただ悪より救いたまえ』(韓国)
 『朝が来る』(日本)

★美術賞

◎『リンボ』(香港) 
 『スパイの妻』(日本)
 『茲山魚譜 チャサンオボ』(韓国)
 『Labyrinth』(インド)
 『A Writer's Odyssey』(中国)

★撮影賞

◎『荒れ地』(イラン) 
 『イエローキャット』(カザフスタン、フランス)
 『リンボ』(香港)
 『ただ悪より救いたまえ』(韓国)
 『Cliff Walkers』(中国)
 『泣く子はいねぇが』(日本)

★作曲賞

◎『狂舞派3』(香港)
 『One Second』(中国)
 『ただ悪より救いたまえ』(韓国)
 『Cliff Walkers』(中国)

★衣装デザイン賞

◎『スパイの妻』(日本) 
 『イエローキャット』(カザフスタン、フランス)
 『茲山魚譜 チャサンオボ』(韓国)
 『スペース・スウィーパーズ』(韓国)
 『Cliff Walkers』(中国)

★視覚効果賞

◎『エイト・ハンドレッド -戦場の英雄たち-』(中国)
 『スペース・スウィーパーズ』(韓国)
 『おらおらでひとりいぐも』(日本)
 『1秒先の彼女』(台湾)
 『A Writer's Odyssey』(中国)

★音響賞

◎『リンボ』(香港) 
 『泣く子はいねぇが』(日本)
 『Labyrinth』(インド)
 『スペース・スウィーパーズ』(韓国)
 『エイト・ハンドレッド -戦場の英雄たち-』(中国)

https://www.afa-academy.com/page?mid=22

最多受賞は作品賞、主演女優賞、衣装デザイン賞の3部門を制した『スパイの妻』、続いて2部門で受賞したのは中国の『One Second』と香港の『リンボ』です。

国別にみていくと中国が19ノミネートで最多、17ノミネートの韓国、16ノミネートの日本が続きます。

また作品別のノミネートでは中国の『Cliff Walkers』が6部門でトップ、日本の『スパイの妻』と中国の『One Second』が5部門で続き、韓国の『茲山魚譜 チャサンオボ』と『ただ悪より救いたまえ』、香港の『リンボ』が4部門となっています。

作品賞の5本については、ヴェネツィア映画祭監督賞の『スパイの妻』、ベルリン映画祭で審査員グランプリ受賞の『偶然と想像』、ヴェネツィア映画祭脚本賞の『夢追い人』、名匠チャン・イーモウ監督作品でベルリン映画祭出品予定だった(直前に取り下げ)『One Second』、『王の男』『金子文子と朴烈』など時代物を得意とする韓国の名匠イ・ジュニク監督の『茲山魚譜 チャサンオボ』と充実のラインナップのように思います。

それぞれについて語っているときりがないので日本で視聴可能な作品をご紹介します。

『エイト・ハンドレッド -戦場の英雄たち-』→11/12劇場公開

『スペース・スウィーパーズ』→Netflixで視聴可能
『リンボ』→第34回東京国際映画祭で上映
『茲山魚譜 チャサンオボ』→11/19劇場公開
『弱くて強い女性たち』→Netflixで視聴可能
『声もなく』→2022/1/21劇場公開
『ただ悪より救いたまえ』→12/24劇場公開
『ザ・コール』→Netflixで視聴可能
『夢追い人』→Netflixで視聴可能

『親愛なる君へ』『1秒先の彼女』は現在公開中なので見たい人はお早めに!ちなみに『イエローキャット』『無聲』は昨年のフィルメックスで上映、『荒れ地』は昨年の東京国際映画祭で上映、『三姉妹』は今年の大阪アジアン映画祭で上映しましたが現在は観ることができないようです。『Sun Children』は前回のアカデミー賞イラン代表作品でした。


第14回アジア太平洋映画賞

★作品賞

 『A Hero』アスガー・ファルハディ監督(イラン)
 『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督(日本)
 『A Night of Knowing Nothing』パヤル・カパディア監督(インド)
 『悪は存在せず』モハマド・ラスロフ監督(イラン)
 『The Pencil』ナタリア・ナザロヴァ監督(ロシア)

★新人作品賞

 『夏時間』ユン・ダンビ監督(韓国)
 『風の電話』諏訪敦彦監督(日本)
 『Brother's Keeper』フェリト・カラハン監督(トルコ)
 『Scales』シャハド・アミーン監督(イラク)
 『When Pomegranates Howl』グラナズ・モウサヴィ監督(アフガニスタン)

★監督賞

 アスガー・ファルハディ『A Hero』
 濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』
 デア・クルムベガシヴィリ『Beginning』
 カミラ・アンディニ『ユニ』
 PSヴィノスラジュ『Pebbles』

★脚本賞

 『A Hero』(イラン)
 『ドライブ・マイ・カー』(日本)
 『迂闊な犯罪』(イラン)
 『Sughra's Sons』(アゼルバイジャン)
 『旅立つ息子へ』(イスラエル)

★撮影賞

 『A New Old Play』(香港)
 『時の解剖学』(タイ)
 『Pebbles』(インド)
 『Taste』(ベトナム)
 『復讐は神にまかせて』(インドネシア)

★女優賞

 アリーナ・イヴ『Asia』(イスラエル)
 アズメリ・ハケ・バドン『Rehana』(バングラデシュ)
 ヴァレンティナ・ロマノワ・チスキレイ『Scarecrow』(ロシア)
 リア・パーセル『The Drover's Wife The Legend of Molly Johnson』(オーストラリア)
 エシー・デイヴィス『The Justice of Bunny King 』(ニュージーランド)

★男優賞

 アミール・ジャディディ『A Hero』(イラン)
 西島秀俊『ドライブ・マイ・カー』(日本)
 レヴァン・テディアシュヴィリ『Brighton 4th』(ジョージア)
 メラーブ・ニニッゼ『House Arrest』(ロシア)
 ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ『Nitram』(オーストラリア)

★長編アニメーション映画賞

 『整形水』(韓国)
 『漁港の肉子ちゃん』(日本)
 『The Knight and The Princess』(サウジアラビア)
 『The Nose or The Conspiracy of Mavericks』(ロシア)
 『Where is Anne Frank』(ベルギー)

★長編ドキュメンタリー映画賞

 『ミゲルの戦争』(レバノン)
 『Gorbachev. Heaven』(ラトビア)
 『Sabaya』(スウェーデン)
 『The Devil's Drivers』(レバノン)
 『Writing With Fire』(インド)

https://www.asiapacificscreenawards.com/news-events/14thapsasnominations

アジア太平洋と言いながらスウェーデンやベルギーの作品が入っているというのはどういうことなんでしょう?制作はヨーロッパだけど監督がアジア圏の人とかなんでしょうか。

最多ノミネーションはファルハディの『A Hero』と濱口の『ドライブ・マイ・カー』で4部門です。個人的には『悪は存在せず』はもっと入ってもおかしくないと思うのですが・・・

作品賞に関しては、ファルハディの『A Hero』と濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』は共にカンヌのコンペで受賞しており文句なしでしょう。また『悪は存在せず』もベルリンで金熊賞を獲得した作品と言うことで納得です。また『A Night of Knowing Nothing』もカンヌの監督週間でプレミアされた作品で、上記3作品と比べると劣りますが実績は十分です。『The Pencil』に関しては日本のスキップシティ国際Dシネマ映画祭で受賞しているのみで五本の一本としては違和感があります。

監督賞は『悪は存在せず』のモハマド・ラスロフ監督が落ちているのは納得できません。ファルハディ、濱口は順当、デア・クルムベガシヴィリとカミラ・アンディニは共に世界で注目されつつある女性監督と言うことである程度納得できます。ただ、PSヴィノスラジュに関してはこれが長編デビュー作らしく、新人作品賞ではなく監督賞に入っているのは驚きです。ただ若手の登竜門と言われるロッテルダム映画祭でタイガーアワードを獲得していることもありこれから注目の監督であることは疑いようがないでしょう。

アジア・フィルム・アワードに比べると日本で知られていない作品が多い印象です。アジア・フィルム・アワードと同様に日本で観られる、もしくは上映されたことのある作品を下記にあげます。

『悪は存在せず』→昨年の東京国際映画祭で上映

『夏時間』→今年夏に公開済み
『ユニ』→今年のフィルメックスで上映予定
『迂闊な犯罪』→昨年のフィルメックスで上映
『旅立つ息子へ』→今年春に公開済み
『時の解剖学』→今年のフィルメックスで上映予定
『復讐は神にまかせて』→今年の東京国際映画祭で上映予定
『整形水』→現在劇場公開中
『ミゲルの戦争』→今年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映

このなかでソフト化、または配信の可能性があるのは『夏時間』『旅立つ息子へ』『整形水』くらいでしょうか。これから開催される東京国際映画祭やフィルメックスで上映される作品もあるので興味がある方はチェックしてみてはいかがでしょうか?


ということで今回はアジア主体の映画賞についてご紹介しました。本家アカデミー賞のように名実ともに権威ある映画賞になっていくといいですね!