第22回東京フィルメックス おすすめ作品
今年も東京フィムメックスが始まります。今回の変化としてはプログラミングディレクターとして市山尚三氏が退陣し、神谷直希氏が着任されました。
しかしながらラインナップを見る限りでは大きな変化はなさそうです。
そこでこの記事では今回のおすすめ、注目作品を予習がてら紹介していきたいと思います。
特別招待作品
〇『偶然と想像』 (日本、濱口竜介監督)
https://filmex.jp/2021/program/specialscreenings/ss7
「偶然」という共通の主題を持つ、それぞれ異なる3つの短編から成るアンソロジー作品。登場人物たちの交わす会話はどんどん掘り下げられていき、いつしか全く別の地点に帰着する。ベルリン映画祭コンペティション部門で上映され、銀熊賞を受賞した。
『ドライブ・マイ・カー』が絶賛上映中の濱口竜介監督の短編集であり、今回の東京フィルメックスのオープニング作品です。『ドライブ・マイ・カー』は私も観たのですが、濱口作品らしい静謐さと詩的な感性を持った素晴らしい作品でした。本作もベルリンでの受賞したということで楽しみにしたいと思います。チケット争奪戦になること間違いなしですね。
〇『アヘドの膝』 (フランス・ドイツ・イスラエル、ナダヴ・ラピド監督 )
https://filmex.jp/2021/program/specialscreenings/ss1
イスラエル人映画監督のY。自分の過去作の上映会に招かれた彼は、国から承認を受けた話題についてしか話せないことをそこで告げられるが......。前作『シノニムズ』がベルリン映画祭で金熊賞を獲得したナダヴ・ラピドの新作。カンヌ映画祭で審査員賞を受賞した。
『シノニムズ』でベルリンを制したナダヴ・ラピド監督の新作で、本作はカンヌで審査員賞ということで観ないわけにはいきません。『シノニムズ』は日本ではフランス映画祭で一度上映したのみで私も観られていないのでどういう作風なのか、好きなタイプなのかも全く分かりませんが、カンヌで評価されているということはやはり一定のドラマ性は担保されていると受け取っていいと思うので期待したいところです。上映時間が短めなのもいいですね。
〇『麻希のいる世界』 (日本、塩田明彦監督)
https://filmex.jp/2021/program/specialscreenings/ss8
持病を抱え、人生への希望が持てずにいる高校生の由希は、ある日、美しい歌声を持つ破滅型の同級生の麻希と運命的に出会う。主演に新谷ゆづみと日髙麻鈴を迎えた、名匠塩田明彦による新たな音楽映画。『害虫』(02)『カナリア』(04)に続き、向井秀徳が劇中歌を提供している。
個人的な思い入れになってしまい恐縮なんですが、私本当に『さよならくちびる』が大好きなんです。初めてみた塩田作品であるこの作品から過去作を観まくっています。『黄泉がえり』『どこまでもいこう』『カナリア』・・・どれも素晴らしい作品であると私は思っています。そんな塩田監督の新作ですから行くのが当然です。もちろん日本映画なのでどのみち公開されることが分かりきっているとはいえ塩田監督のファンとして誰よりも先に観たいと思っています。今作も音楽映画ということで本当に楽しみです。
〇『魔法使いのおじいさん』 (インド、G.アラヴィンダン監督)
https://filmex.jp/2021/program/specialscreenings/ss4
村に現れ、瞬く間に子供たちの人気者となった不思議な老人。村を去る日、彼は子供たちを魔法で次々と動物に変えていくが......。G. アラヴィンダン監督が1979年に残したマラヤーラム語映画の傑作。今回の修復版は、今夏にボローニャ復元映画祭にてプレミア上映された。
これは新作ではなく、1979年の映画の修復版ということですが、非常に奇妙なストーリーですよね。予告動画のようなものがインターネットにあがっていたので観たのですが、ジャンル映画的というよりはやはりアート映画といった趣の興味深い映像でした。今まで知らなかった古いインド映画に出会うという意味でも貴重な体験になるのではないでしょうか。
〇『瀑布』 (台湾、チョン・モンホン監督)
https://filmex.jp/2021/program/specialscreenings/ss5
COVID-19によるパンデミックが始まった直後の台北を舞台に、自宅隔離をきっかけにして大きな荒波に晒される母娘関係を描く。国際的な成功をおさめた『ひとつの太陽』に続くチョン・モンホンの長編第6作。ベネツィア映画祭オリゾンティ部門で上映された。
『ひとつの太陽』は昨年の東京国際映画祭でも上映され、米アカデミー賞では台湾代表として出品され最終選考まで残るという快挙を成し遂げました。また本作も来年のアカデミー賞の台湾代表作品として出品されることが先ほど発表されました。私は『ひとつの太陽』と長編第一作である『停車』を観たのですが、どちらも異なるテイストながらしっかりと軸のあるドラマを監督できる人物であると確信しています。『ひとつの太陽』はイ・チャンドン監督の諸作に通じるような美しくも残酷な家族のドラマとして素晴らしかったですし、『停車』はワンシチュエーションのブラックコメディでありながら不条理劇でもある作品でした。腕のある監督であることは過去作から観ても疑いようがないのでこれも必見の一本でしょう。
コンペティション
〇『見上げた空に何が見える?』 (ドイツ・ジョージア、アレクサンドレ・コべリゼ監督)
https://filmex.jp/2021/program/competition/fc1
街で偶然出会い、一目で恋に落ちたリサとゲオルギ。しかし彼らの外見は、不思議な力によって翌日に完全に別人になってしまう......。ジョージアの俊英アレクサンドレ・コベリゼの遊び心溢れる長編第2作。ベルリン映画祭コンペティション部門で上映された。
この監督について調べてみたのですが、長編一作目はどこの映画祭にも出品されていないようで特に話題を呼んだわけではなさそうで、新人でいきなりベルリンコンペ入りしたということなのでしょうか。ストーリーの奇抜さもさることながら、黄色がかったような撮影がとても美しく期待させます。150分ということで長尺ではありますが、ラヴ・ディアスに比べれば一瞬のようなものです(言いすぎ?)。ジョージア映画を観ること自体も少ないと思うので期待です。
〇『ホワイト・ビルディング』 (カンボジア・フランス・中国・カタール、ニアン・カヴィッチ監督)
https://filmex.jp/2021/program/competition/fc6
1963年にプノンペンに建造された集合住宅「ホワイト・ビルディング」。建物の取り壊しの期日が近づく中、それまで青春を謳歌していた青年と、その家族の姿が描かれる。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でワールドプレミア上映された。
一昨年のフィルメックスに『昨夜、あなたが微笑んでいた』というドキュメンタリーが出品され、スペシャル・メンションを受賞したニアン・カヴィッチ監督の新作です。また本作は来年の米アカデミー賞カンボジア代表作品に選出されています。ストーリーを聞くと『昨夜、あなたが微笑んでいた』もビルの取り壊しの映画だったので、そこからインスピレーションを受けたのかもしれませんね。残念ながら私は『昨夜、あなたが微笑んでいた』は観られていませんが、プレ・オンライン配信作品として今回選ばれているので事前に観ておくことをオススメします。
〇『時の解剖学』 (タイ・フランス・オランダ・シンガポール、ジャッカワーン・ニンタムロン監督)
https://filmex.jp/2021/program/competition/fc5
1960年代後半と現代のタイ。一人の女性の人生が時を隔てて描かれ、そこに国家の負の歴史が交錯する。『消失点』に続くニンタムロンの長編第2作。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でワールドプレミア上映された。
長編第一作の『消失点』は若手監督の登竜門として知られるロッテルダム映画祭で最高賞を受賞、フィルメックスでも上映されたニンタムロン監督の新作です。この『消失点』もプレ・オンライン配信作品として今回選ばれているので予習がてら観たいところです。画像を観ていただければお分かりの通りとにかく撮影が美しすぎます。森と光、謎めいた洞窟・・・アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の系譜にあるのでしょうか。ストーリーも聞いただけでは全く想像がつかない壮大なスケールでタイ映画の底力というか、独特の系譜を感じさせます。
〇『永安鎮の物語集』 (中国・ウェイ・シュージュン監督)
https://filmex.jp/2021/program/competition/fc8
映画の製作チームが撮影準備のために湖南省にやって来たことから派生する物語を3部形式で描く。映画の製作が地方の田舎町に引き起こす幾つかの「波紋」が多面的に切り取られている作品。カンヌ映画祭監督週間でワールドプレミア上映された。
監督のウェイ・シュージュンは短編『On the Border』がカンヌに出品され特別賞を受賞、長編一作目となる『Ye Ma Fen Zong』はいくつかの小さい映画祭に出品と順当なキャリアを積んできた監督のようです。これもまた画像を観たら分かるとおり撮影が美しい!赤やオレンジを効果的に使っています。『薄氷の殺人』のディアオ・イーナンのフィムル・ノワールのような雰囲気を感じさせますね。そうなると大好物なのですが、とりあえずは予告映像を待ちたいと思います。
〇『ただの偶然の旅』 (中国、クィーナ・リー監督)
https://filmex.jp/2021/program/competition/fc9
ある島の灯台の光の中でのみ繁殖するとされるロブスター。チベットのラサで出会ったその聖なるロブスターを故郷に帰すため、一人の若い女性が車で旅をするロードムービー。ミュージシャンのリア・ドウが主演を務め、映画の音楽も担当している。
こちらも中国の作品。「チベットのラサで出会った聖なるロブスター」という不思議なワードに惹かれました。本作は今年のロッテルダム映画祭に出品された作品のようで、監督もテレビのミニシリーズを一つ手がけただけの新人のようです。そして(こういうことを言うと無粋かもしれませんが)クィーナ・リー監督、超絶美人です。ミュージシャンが主演を務め、さらに映画音楽までやっているというのはどういうことなのか、観て確かめてきたいと思います。
ということで今回は東京フィルメックスの個人的期待作を紹介させていただきました。
読んでいただきありがとうございました!