第34回東京国際映画祭 コンペ編
みなさんこんばんは。先頃東京国際映画祭のラインナップが発表されました。
今回の変化と言えば、プログラミングディレクターの交代でしょう。東京国際映画祭の顔とも言えるプログラミングディレクターであった矢田部氏が退き、東京フィルメックスのディレクターであった市山尚三氏がプログラミングディレクターに着任されました。
このことでやはり全体の印象としてはアジア中心になりアート系の映画が多くなったと感じます。
ということで今回はコンペ部門で気になる作品を紹介したいと思います。個人的な好みとしてホラー、スリラー系が好きなのでそういった作品が中心になるかもしれません。
〇『アリサカ』(フィリピン、ミカイル・レッド監督)
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP01
護送中の証人が襲撃され、ただひとり生き残った女性警官が先住民の家にかくまわれる。だが、そこにも追手が迫ってきて...。バターンを舞台に繰り広げられるアクション・スリラー。
ミカイル・レッド監督は『バードショット』(2016)、『カトリックスクールの怪異』(2018)、『デッド・キッズ』(2019)がNetflixで、『ミッドナイト・アサシンズ』(2017)がU-NEXTで見られます。ホラーやスリラーを得意とする監督のようで公開されている画像をみるだけで心躍ります。私自身この監督の作品をまだ一作も観たことがないので予習としてこれからみたいと思います。
〇『クレーン・ランタン』(アゼルバイジャン、ヒラル・バイダロフ監督)
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP03
昨年『死ぬ間際』で第21回東京フィルメックス・グランプリを受賞したバイダロフの最新作。女性を誘拐した罪で服役している男と法学生との対話が美しい風景の中で展開される。
昨年ヴェネツィア映画祭のコンペ部門に出品、東京フィルメックスではグランプリを獲得した『死の間際(In Between Dying)』のヒラル・バイダロフ監督の新作です。これは私観ています。そのときのレビューから抜粋すると
「寓話的なロードムービーとでも言おうか、行く先々で「死」に出会う男の話。いつくかのチャプターに分かれ、霧や舞い散る落ち葉など美しい自然に溢れた純度の高いアート作品。 セリフがあまりに観念的なのはわざとらしさを感じたが、ロケーションの美しさとユーモアを交えた語り口が面白かった。 」
と書いています。かなり気に入った作品だったので新作も楽しみにしています。
〇『ザ・ドーター』(スペイン、マヌエル・マルティン・クエンカ監督)
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP04
少年犯罪者の更生施設に住む少女が妊娠する。施設の教師とその妻は、人目を避けて出産できるように少女と山小屋で共同生活を始める。雪の中で展開される衝撃的な心理ドラマ。
マヌエル・マルティン・クエンカ監督は日本では『カニバル』(2013)しか公開されていませんが、2000年代初頭から活躍されている方のようです。スペイン版アカデミー賞であるゴヤ賞では脚色賞で3回、監督賞で2回ノミネートされており、国内では評価されているようです。また『El autor』(2017)はトロント映画祭に出品され、国際批評家賞を獲得しています。本作もどうやらトロント映画祭に出品されているようです。
予告動画が公開されており、閉鎖空間で起こる心理スリラーは大好物ですし、雪景色も美しくとても楽しみです。なお本作は既に海外評が出ており、概ね好意的に捉えられているようです。
唯一日本で観られる『カニバル』を観て備えたいと思います。
〇『四つの壁』(トルコ、バフマン・ゴバディ監督)
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP06
クルド人の音楽家のボランは、妻と子供を呼び寄せる日を楽しみにしながら部屋のローンを返済するために働いている。そんなボランを悲劇が襲う。『亀も空を飛ぶ』(04)のゴバディによる強烈な人間ドラマ。
バフマン・ゴバディ監督は『亀も空を飛ぶ』が日本でも公開され、キネマ旬報ベストテンでは3位につけるなど日本でも評価されています。カンヌ映画祭ではある視点部門に『わが故郷の歌』(2002)、『ペルシャ猫を誰も知らない』(2009)と出品され、後者では特別審査員賞を獲得しています。またラップグループ、ライムスターのメンバーで映画評論家でもある宇多丸さんも『ペルシャ猫を誰も知らない』をラジオで評し賞賛しています。
過去作では東京フィルメックスでも上映された『サイの季節』がAmazon primeでみられるのと、『ペルシャ猫を誰も知らない』がレンタルで観られるようなので予習して臨みたいと思います。ただし代表作である『亀も空を飛ぶ』が現在入手困難なようです。これは困りますね・・・
正直画像を見るだけでは全く分からないので予告映像に期待です。
〇『市民』(ベルギー/ルーマニア/メキシコ、テオドラ・アナ・ミハイ監督)
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP09
組織犯罪に巻き込まれて行方不明になった娘の行方を捜すシエロは、凄惨な実態を目撃して...。ルーマニアの女性監督がダルデンヌ兄弟のプロデュースによりメキシコで撮影した作品。
ドキュメンタリー映画『Waiting for August』(2014)が各国の映画祭に出品され、本作は初のフィクション長編映画ながらカンヌのある視点部門に出品されました。
予告動画を観たのですが、主演の女優さんの演技が素晴らしく、見応えのある作品になっていそうです。ダルデンヌ兄弟プロデュースということでとても楽しみですね。
〇『一人と四人』(中国、ジグメ・ティンレー監督)
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP10
密猟が横行する雪山。山小屋の管理人の前にひとりの男が現れ、やがてひとり、またひとりとクセのある男たちが山小屋を訪れる。チベット映画の雄、ペマ・ツェテンがプロデュース。
この監督に関してはペマ・ツェテン作品に関わっているという以外の情報があまり得られなかったのですが、2022年公開予定の『雨后』もあるようでこれから期待の新人監督なのでしょうか。
ルックはまるでタランティーノの『ヘイトフル・エイト』のようで非常に面白そうです。ペマ・ツェテン作品は『羊飼いと風船』と『轢き殺された羊』しかみられていませんが、興味深い監督なので彼がプロデュースするとあっては見過ごすわけにはいきません。
〇『ある詩人』(カザフスタン、ダルジャン・オミルバエフ監督)
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP13
文壇に認められない詩人の男は、権力に抗って処刑された19世紀の詩人に思いを馳せる...。現代社会における芸術の困難さを描いた、カザフ映画の旗手オミルバエフの最新作。
ダルジャン・オミルバエフ監督は日本での公開作はありませんが、カンヌ映画祭ではある視点部門に3回、ヴェネツィア映画祭のコンペに1回選ばれているというかなり実績のある監督のようです。
東京国際映画祭で上映された『ある学生』(2012)はドストエフスキーの『罪と罰』を現代カザフスタンに置き換えたもので、『Shuga』(2007)はトルストイの『アンナ・カレーニナ』を現代に置き換えたもののようで、すごく面白そうですよね。と同時に一筋縄ではいかない作品そうだなとも感じます。
上述の筋を聞いただけではどういう話か全く想像できませんし、日本で観られる作品もないので予告動画を待ちたいと思います。
〇『ヴェラは海の夢を見る』(コソボ/北マケドニア/アルバニア、カルトリナ・クラスニチ監督)
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3401CMP15
夫の突然の自殺の後、ヴェラは家がギャンブルの借金の抵当になっていたことを知らされる。男性優位の環境に抵抗する女性を力強く描いたコソボの女性監督のデビュー作。
長編ドラマ映画デビュー作ながらヴェネツィア映画祭のオリゾンテ部門に選出された作品です。予告動画を見る限りだと撮影がとても美しく、期待させます。コソボの女性監督の作品というだけでも珍しく、フェミニズム的メッセージを持った作品として重要作なのではないかと思います。
というわけでコンペ部門で気になっている作品を書いてみました。
全体にアート色が強く地味な気はしますね。