2021年ヴェネツィア国際映画祭結果
〇コンペティション部門
👑金獅子賞 『Happening』 監督:オドレイ・ディワン
カンヌ国際映画祭に続き女性監督が最高賞を獲得しました。長編二作目となる若手ということでこれからのますますの活躍に期待ができますね。ポン・ジュノの「満場一致で決まった」という発言からも出来映えは文句なしなのでしょう。近年ヴェネツィア映画祭とアカデミー賞の距離感が近くなっており、もしこの作品がフランス代表として出品されれば国際長編映画賞に絡んでくる可能性はありますよね。
★審査員大賞 『The Hand of God』 監督:パオロ・ソレンティーノ
『グレートビューティー 追憶のローマ』『グランドフィナーレ』など「現代のフェリーニ」とも言われるイタリアの巨匠、ソレンティーノの新作が審査員大賞となりました。また若手俳優に贈られるマルチェロ・マストロヤンニ賞が本作主演のフィリッポ・スコッティに対して与えられました。個人的にはソレンティーノはあまり好みではないのですが、『グレートビューティー 追憶のローマ』でアカデミー国際長編映画賞を獲得していることから知名度もありますし、Netflixが配給であることからキャンペーンも積極的に行ってもらえる可能性がありますよね。国際長編映画賞だけではなく撮影賞や監督賞などへの参入もあり得るといえるでしょう。
監督賞 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』 監督:ジェーン・カンピオン
『ピアノ・レッスン』『ある貴婦人の肖像』以来アカデミー賞からは遠ざかっていた女性監督のパイオニアの一人ともいえるジェーン・カンピオンが手堅く監督賞を受賞。批評家からも絶賛されており、特に主演のベネディクト・カンバーバッチは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のダニエル・デイ・ルイスを彷彿とさせる怪物的演技とのことで来年のアカデミー賞の主役に躍り出ました。作品賞、監督賞、主演男優賞は堅いと見るべきでしょう。ついにNetflixが作品賞をとるのかという意味でも大注目の一作です。
脚本賞 『The Lost Daughter』 監督:マギー・ジレンホール
女優マギー・ジレンホールの監督デビュー作がいきなり脚本賞!これは凄いことです。今年脚本賞を受賞した、同じく女優エメラルド・フェネルの監督デビュー作『プロミシング・ヤング・ウーマン』に続きアカデミー賞でも主要部門に絡んでくる可能性はかなり高いといえるでしょう。そして何よりオリヴィア・コールマンの作品選びの確かさには唸らされます。『女王陛下のお気に入り』『ファーザー』、そして今作と連続で演技賞に絡んでくるでしょうか。また本作もNetflix制作、勢いが止まりませんね。
女優賞 『Madres Paralelas』 監督:ペドロ・アルモドバル
前評判の高かったアルモドバルの新作は女優賞としてペネロペ・クルスの手に渡りました。母親をテーマにした原点回帰的一作として批評家からも絶賛されています。アルモドバルのこれまでの実績から見ても国際長編映画賞は確実でしょう。そして脚本賞や主演女優賞も可能性が高いと言えるでしょう。個人的には『トーク・トゥ・ハー』『ペイン・アンド・グローリー』しかアルモドバル作品は見られていないのですが、これを機に『オール・アバウト・マイ・マザー』を見ないといけないなと思っています。
男優賞 『On the Job: The Missing 8』 監督:エリック・マッティ
『牢獄処刑人』の続編である本作の主演男優であるジョン・アルシアが男優賞を手にしました。フィリピンの新鋭監督のジャンル映画であり、これからどのような公開のされ方をするのか全く読めません。しかしアジアからのエントリーが少ない中でこうして評価されたというのは非常にうれしいです。
審査員特別賞 『Il Buco』 監督:ミケランジェロ・フラマルティーノ
イタリアの新鋭監督で、クロエ・ジャオが「自然や大地との関係を美しく描写している 」と評しました。前作『四つのいのち』は極力セリフを排し長回しで自然を捉えるという作風のようで、いわゆる自然派ともいうべきスタイルと言えるでしょうか。
〇オリゾンテ部門
👑作品賞 『Pilgrims』 監督:ラウリナス・バレイサ
リトアニアの作品です。2017年の短編『By the Pool』がヴェネツィア映画祭オリゾンテ部門に出品、2020年に手がけた『Atkurimas 』という短編映画がベルリン国際映画祭に出品されるなど各地で高い評価を獲得してきた監督のようです。満を持しての長編映画がいきなり最高賞に輝きました。
監督賞 『À PLEIN TEMPS』 監督:エリック・グラベル
フランスの作品で、監督は長編二作目となります。テレビシリーズでの助監督や短編映画を手がけてきた方のようです。
審査員賞 『EL GRAN MOVIMIENTO』 監督:キロ・ルッソ
2016年にてがけた『Viejo calavera』がロカルノ映画祭で受賞を果たすなど国内外で高く評価された監督のようです。本作は長編二作目となり、今後の活躍が期待されます。
脚本賞 『CENZORKA』 監督:ピーター・ケレケス
ドキュメンタリーを多く手がけてきた監督のようで、フィクション作品は三本目となるようです。チェコスロバキアの生まれのようですが、本作の舞台はどうやらウクライナ。ビジュアルがとても面白いので興味を引かれます。
女優賞 『À PLEIN TEMPS』 監督:エリック・グラベル
監督賞も獲得した本作の主演女優であるフランスの女優ロール・カラミーが女優賞を獲得。セザール賞では『Ava』『悪なき殺人(動物だけが知っている)』では助演女優賞にノミネートされ、『Antoinette dans les Cévennes』では主演女優賞を獲得した今注目されている女優のようです。
男優賞 『Bodeng sar』 監督:ニアン・カヴィッチ
カンボジアの作品でこれが長編劇映画としてはデビュー作となるようです。2019年の東京フィルメックスで『昨夜、あなたが微笑んでいた』というドキュメンタリー作品を出品し日本でも注目された監督です。そんな本作の主演であるピセス・チュンが男優賞を獲得。ニアン・カヴィッチ監督の短編『New Land Broken Road』でも主演を務めている若き才能であると言えるでしょう。
ということで今年のヴェネツィア国際映画祭の結果をまとめてみました。総評としては
「Netflix強し!」
につきるでしょう。
とはいえ今後の賞レースの始まりとして注目される本映画祭、受賞作以外にも見たい作品がたくさん。オリゾンテ部門の若い才能にも今後注目したいですね!